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『やぁ、……は……っむ……』
色づいた頬。
とろけた表情。
苦しげな声。
震える身体。
……指に感じた熱くて小さな舌も。
脳裏にこびりついて離れない。
思い出す度に背筋にぞくぞくとしたものが走る。
「どうしたんだ、俺は……」
斎藤一は、己の心境に戸惑っていた。
旭にあんな事をした斎藤。
あの行為は他の隊士達に対する牽制のため。
そして、土方を召喚するためだった。
野獣のような目で旭を見る隊士達も、斎藤の女だと勘違いしてしまえば下手に手は出せない。
口付けしていると思えば、心配そうに旭をチラ見する土方が、彼女を強制送還するだろう。
概ね計画通りに事は進んだ。
彼の誤算は、ただ一つ。
――この俺が……
自分が旭を欲してしまった事。
強固な理性を自負していたはずなのに……。
「駄目だ……。素振りでもするか」
斎藤はフラリと自室を出る。
様々な感情を呑み込んで、皐月の夜は更けていった。
それから暫く、隊士達の間では斎藤、土方、旭の三つ巴説が噂されていたそうだ。
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