第十章

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「…本当に何もなかったのか?」 訝しげに旭を見る土方。 芹沢とのやり取りを話したら、この返答だ。 因みに、沖田はとぼとぼと自室に帰っていった。 「うんっ。何にも!」 旭は普段通りで、嘘をついているようには見えない。 だが、土方は気付いてしまった。 旭の白い首筋に咲いた、真っ赤な華に。 …芹沢の奴…ッ! 土方自身、芹沢に挑発されている自覚は…ある。 いつもは素知らぬ顔で受け流していたが……。 ――――――――― 行灯の柔らかい明かりを消すと、月明かりが存在感を主張する。 すやすや眠る彼女を抱き込むと、荒んだ心が幾らか鎮まった。 「まったく…何なんだ、お前は…」 何故こんなに心を掻き乱すのか。 いつもは耐えられる芹沢からの挑発。 …今回は、我慢ならない。 サラサラの髪を退かすと、露になる柔肌、…紅い痕。 そっと唇を寄せて、思い切り吸い付いた。 芹沢の痕を自分の痕で塗りつぶすように…。 ――こいつが寝てないと、こんな事もできねぇなんてな… 土方は内心自嘲したが、その顔は満足げに微笑んでいた。
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