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男はゆっくりと振り向き、背広のポケットから一枚の黒い名刺を取り出し話し始める。
『私には多額の借金があります。一生かかっても返すことができるかどうか。借金取りから毎日毎日脅迫を受け…。気がついたらビルの屋上に上がっていました。でも結局怖じ気づいて…そんな時あいつが目の前に現れ、この黒い名刺を置いていったんです』
『あいつ、とは?』
『よく分からないんです。いきなり現れたかと思ったら、スッーと消えてしまって』
『名刺を見せて頂けますか?』
その名刺には個人を特定するものは無く、ただ電話番号だけが書いてあった。
『電話をかけたのですか?』
『はい。そしたら男の人が出て言われたんです!
“お前の望みを叶えたいなら
《vision》という名の店に行け”と、それとこの場所の説明をされ、電話が切れました』
彼は男の話を聞きながら、胸ポケットにある携帯電話を取り出しその番号を打ち込む。
『“おかけになった電話番号は現在使われておりません”』
『無駄ですよ。私だって分けがわからなくてもう一度かけたんです!でも、もう、繋がりませんでした』
『それでここへ来たということですね』
一体誰がこんな真似を…
電話を切り男に冷たい眼差しを向ける
『ゎ、私だって最初から信用していたわけじゃない!でも、もう、どうすればいいか…わからなくて…。そんな言葉にもすがりつきたかった…』
男は今にもその場に泣き崩れそうだ。
『ハァ~。わかりました。では、契約の話しに移りましょう。立ち話もなんですから、奥へどうぞ』
『…はっ?…』
面倒くさそうな仕草で話す彼の言葉の意味が分からなくて、男は不思議な顔をし立ち尽くしている。
『そんな顔しないで下さい。あなたが言ったんですよ。ここは《望み》を叶えてくれる場所だと…』
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