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深い、深い、海の底。
ここに、光は届かない。
時折、遠くに深海魚の光が揺らぐだけ。
全てが黒に染まった世界で、私は光る事もせず、ただ深い闇を見つめていた。
「よう、凰(オウ)」
不意に、そんな声がした。
「……また貴方か、虚(ウツロ)」
近くの岩の上に腰掛けた一人の男。
仄白くうっすらと輝く髪を持った、鮟鱇(アンコウ)の虚だった。
「またかとは何だよ。せっかく来てやってんのに」
「別に来てくれとは言っていない」
まともに相手をすればキリが無い。
しばらくの付き合いからそう判断し、軽くあしらう。
確かに暇だが、あいつの相手をするぐらいならまだ暇の方がマシだ。
彼から視線を外し、再び闇へ目を向ける。
正しくは、その向こう側へ。
「まったく、つれないねぇ。美人なのに」
「……美人だと?それは私を口説いているつもりか」
「だってホントだもん」
はっ。
こういう事を軽々と言うから、こいつは嫌なんだ。
まるで私を、わかっていない。
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