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「4月21日。23時32分。死亡を確認」
医者が曇った表情でそう告げると、死亡を言い渡された彼の母親がその場に倒れ込む。
部屋中にこだまする嗚咽は部屋を薄暗く照らす蛍光灯のようだった。
その蛍光灯は彼がまだ息をしているときから、チカチカと点滅を繰り返し、目に痛い光を放っていた。
いくつか蛍光灯はあったのだがそのうちの一つはもう光を失っているものもあり、
この蛍光灯こそ先程医者が口にしたあの台詞がぴったりだ。
気が付けば激しい嗚咽も次第に落ち着きを取り戻し母は彼の死に顔を柔らかい表情で眺めていた。
頬に手を当てると、まだ微かに温もりが残っているのが分かる。
顔色は少し悪いが気になる程でもなく、表情としては少し微笑んでいるように見える。
本当に亡くなってしまった人なのだろうか。
太陽が顔を出す頃には目が覚めて『母さん』といつもの様に呼んでくれるのではないか。
彼の死は認めているつもりでもそんなことを錯覚してしまうのはおかしいのだろうか。
どうあれ彼の先にあるものは安らかな死後の世界ではなかった。
未だ、彼はそれを知る余地はない。
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