多岐川醒夜

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「あなた、目に悪いわよ」 たまたま部屋の前の廊下を歩いて通り過ぎた妻に声をかけられ、彼はひとこと、あぁ、とだけ答えた。 その返事が妻の耳に届いたかどうかは知らないが、彼は忠告に従って部屋に明かりを点ける訳でもなく、再びパソコンに向かう。 真っ暗な部屋。 およそ光りと呼べるものは、パソコンモニターと、壁掛け時計の針にペイントされた薄緑色の蛍光塗料と、真っ赤なタバコの先端のみ。 目に悪い、と言われても確かに仕方のない状況ではある。
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