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お腹が捻くり返るような痛みに、うめき声を上げそうになった。イケメンを目の前にするといつもこうだ。握りしめた左手は、冷や汗でびしょびしょである。
今すぐこの場から逃げ出したい訳だが、仕事場の先輩に対してそのような行動をとるのはあまりにも失礼だと思い、どうにかこの場に固まっているのだ。
目の前で少し微笑みを浮かべる笹丘さんは、仕事場のプリンス的ポジションの人である。アルバイトの女の子達は、彼を見つけると黄色い声を上げ、頬を赤らめる。無論、私を除いて。
「今日も昼間は混んでたね、大丈夫?疲れてない?」
笹丘さんはいい人だ。仕事はできるし、皆に優しい。モテるのがよくわかる。
「はい…大丈夫です。ありがとうございます。」
私はさっきから、休憩室のテーブルの上に置いてあるお茶のラベルを見つめている。プリンス笹丘と目が合おうものならば、発狂してしまいそうだからだ。
朝のニュースの星占いが頭の中でぐるぐる回る。
─『今日の最下位はしし座のあなた!思いがけないハプニングが!!あなたの苦手分野が問題として浮上しそう』─
朝から嫌な予感がしっぱなしだった。
いつも乗ってるバスが20分も遅れたし、一番の親友のまりあは風邪で休みだし、こうしてプリンス笹丘と休憩室で2人きりになってしまったし…
「…具合でも悪いの?」
「えっ」
「さっきからずっと俯いてるから」
「いえ、ちょっと…あの…寝不足で」
ぱっと顔をあげた瞬間、笹丘さんとバッチリ目が合ってしまった。
凛々しい眉、綺麗なパッチリ二重、程良く日に焼けた肌、通った鼻筋、セクシーな唇…
血の気が引いて倒れそうになった。
吐き気と動悸を必死に抑えようとして、頭がクラクラとする。
「あのさ…実は、今日こうして一緒に休憩とれたのが、俺すごく嬉しいんだよね」
何だか笹丘さんのキラキラオーラに動揺して、気が遠くなっていく。
「ずっと、話がしたかったんだ。」
もう笹丘さんは私の世界の遥か遠くで何かぼやぼや言っているようにしか聞こえない。
いつ意識を失ってもおかしくない。
「こんな場所で、こんなタイミングで悪いけれど…俺、君のことが好きなんだ!付き合ってほしい!」
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