恐ろしい日

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クラスどころか学年の人気ものだし、サッカー部のキャプテンをしている知る人ぞ知るイケメンなのだ。 そんな春斗くんに声をかけられたのは、ある日の放課後だった。 いつものように窓際の席でお気に入りの作家の小説を読んでいた。その日はいちだんと暖かくて、私は半分眠りかけていた。 「よぉ、久保田!!」 いきなり声をかけられてビクンと両肩があがる。振り向くと白い歯をのぞかせた春斗くんが立っていた。 彼の容姿は言うなれば、王子様だ。 はっきりとした二重の大きな瞳に、整った鼻と口。笑うとえくぼができる。 「何読んでんの?」 「え…あ、小説…」 「へー、俺小説とか全然読まない。面白い?」 「…うん、面白いよ」 「じゃあ今度面白い本あったら教えてよ」 春斗くんはポンと私の肩をたたくと、ジャージ袋片手に教室を出て行った。 春の柔らかな風が窓から入りこんで、それは何か胸騒ぎにも似た匂いだった。 心臓がドキドキとうるさくて、息を吸うと胸の奥がきゅうとなって、私は繰り返し、バカの一つ覚えみたいに春斗くんの 言葉を頭の中で再生する。 それはたぶん恋だった。 一目惚れに近い恋だった。 初恋だった。
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