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ただ、この恋は叶うことなく結末を迎える。
偶然聞いてしまったあの言葉。
「久保田って可愛いよな」
それは下駄箱で、春斗くんがクラスの男子達と交わしていた言葉。
「でも、あいつ根暗っぽくて俺は無理。この前さ、話しかけてみたけれど、小説とか読んでてさ、なんか何考えてんのかわかんない感じでキモいんだよ
」
それは、紛れもなく春斗くんの声だった。
頭から水をかぶったみたいに、身体中が冷たくなっていくのを感じる。
あまりにもあっけない失恋だった。
涙は出なかった。
春斗くん達が下駄箱から遠ざかっていくと、同時に私は靴を履き替えて走り出した。
ただがむしゃらに、呼吸ができなくなるくらいに、悲しくて、それに自分に腹が立った。
こんな自分を好きになってもらえるはずがない。
当たり前だ。
相手は王子様。
私はただの凡人。何の取り柄もない。
明るくもない。口下手だし。
学校から離れた坂の上まできて、やっと足を止めた。
しばらくぼぉっと立ち止まり、空を眺めた。なぜか春斗くんの笑顔が忘れられなくて、あのキラキラとした眩しい姿が胸に焼き付いて離れなかった。
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