240人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
あの日、久しぶりに園長先生から外出の許可を貰って…
たまたま、丘の上の花畑まで遊びに行った。
まだ物心がつく前に親と死に別れた俺がこの孤児院にやって来てから、気付けば俺の世界にはずっと紅くんがいた。
面倒見のいい紅くんは、俺にとって家族であって、一番大切な人だった。
そんな兄貴分な紅くんは、俺が頼めば必ずいいよって付き合ってくれて…
あの日だって、何も疑問を抱かずにいつもみたいに二人で遊びに行った。
ただ、それだけだった。
* * *
「…………。」
静かに目を覚ませば、そこはいつしか見慣れてしまった暗闇で。
コンクリート打ちっぱなしの殺風景なこの部屋には、あの日から変わらず…粗末なベッドと僅か頭上にある、鉄格子で阻まれた小さな空気溝が在るだけで
…固く閉ざされた目の前の鉄の扉は、"時間"になるまで施錠されて開く事はない。
「…………。」
そんな、無限の地獄にため息をついてから隣を見つめれば、小さな寝息を上げて体を丸めながら静かに彼は眠っていた。
「………紅、くん。」
そっと、痩せた手で彼の柔らかく色素の薄い茶色い髪を撫でる。
微かに触れた頬は、病的なほど青白い。
「…………。」
部屋の冷たさと同様に、酷く体温の低い、身体。
このまま、ずっとこのままなんて、絶対にダメだ。
俺なんかどうでもいいけど……
紅くんは、このままじゃきっと…壊れてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!