第壱射撃

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   射出されたのは弾丸では無く、言葉の暴力という名の罵詈雑言であった。  五月女麗奈……彼女はどうやら人の精神的な部分を削る能力に長けているらしい。 「心が折れそうだ……」  腰に付けた万歩計が、一歩一歩と俺の歩調と息を合わせるようにカウントを重ねて行く。  あの後、存分に気分を沈められてしまった俺は、メンタルケアの要領でランニングという名の課題をこなすこととした。  西からは存在を誇示する朝日が、瞳に鋭く突き刺さる。  活動を始める合図を一斉に行うカラスの鳴き声が、耳をつんざく。  晩春の知らせを運ぶように、そよ風が頬をすり抜ける。  そんな環境に置かれた俺は、何を思ってかは定かでは無いが、遠いようで近い過去の自分を思い出していた。
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