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「……長谷川茜(ハセガワ アカネ)さん、俺と付き合ってください」
夕陽が差し込む教室で、私は突然告白された。
相手は、藤村千夏(フジムラ チカ)。
――ずっと好きだった私の幼なじみ。
あんまり近くに居過ぎて、想いを口にしたら傍に居られなくなると思っていたから。
「…………はぃ………」
伝えたい言葉がもっとあるのに。
今までの想いが溢れていっぱいになって、一言しか言えなかった。
「良かった、茜ありがとう」
千夏は胸を撫で下ろすと、真っ赤になった私の顔を両手で優しく包む。
入学式の時は、そんなに身長変わらなかったのに。
いつの間にか、千夏は男の人になっていたんだ。
傍でずっと見ていた筈なのに、改めて意識してしまう。
柔らかい少しくせっ毛な千夏の前髪がおでこを撫でてこそばゆい。
「……俺、今日から茜の幼なじみから彼氏に昇格な」
千夏は昔から変わらない満面の笑顔を見せると。
強く、引き寄せるように私を抱きしめた。
制服から千夏の匂いがする。
ドキドキするのに、どこか落ち着ける千夏の胸の中で、私は幸福に包まれていた。
――廊下に佇む、伸びた影の存在を知らずに――
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