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「それ」
彪兎は顎で幸仔の手首を差した。
「リスカ…幸仔って死にたいの」
「幸仔って名前…嫌なんだけど」
幸仔は顔を伏せた。
長い髪は手入れもされずボサボサで、前髪は顔を隠している。
その上フレームの太い黒縁の眼鏡で顔の輪郭を誤魔化していた。
「名前負けしてるしな」
「平気でそういう事言うのね」
「話を戻す。葵は死にたいの」
屋上の落下防止用のフェンスにもたれかかって居た彪兎は、体を弾ませフェンスから離れると一歩葵に近付いた。
「恐怖が伴わないなら死にたいわ」
「眠剤飲んで練炭自殺でもしたら」
彪兎はもう1歩葵に近付いた。
「試したわ…でも処方箋で貰った睡眠薬には慣れていて、練炭自殺の途中で目が覚めたわ」
葵は空を見上げた。
髪が後ろに流れ、彪兎には素顔が見えた。
少なくとも彪兎の周囲に居る女達よりは綺麗だった。
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