No.01 葵 幸仔

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  「それ」 彪兎は顎で幸仔の手首を差した。 「リスカ…幸仔って死にたいの」 「幸仔って名前…嫌なんだけど」 幸仔は顔を伏せた。 長い髪は手入れもされずボサボサで、前髪は顔を隠している。 その上フレームの太い黒縁の眼鏡で顔の輪郭を誤魔化していた。 「名前負けしてるしな」 「平気でそういう事言うのね」 「話を戻す。葵は死にたいの」 屋上の落下防止用のフェンスにもたれかかって居た彪兎は、体を弾ませフェンスから離れると一歩葵に近付いた。 「恐怖が伴わないなら死にたいわ」 「眠剤飲んで練炭自殺でもしたら」 彪兎はもう1歩葵に近付いた。 「試したわ…でも処方箋で貰った睡眠薬には慣れていて、練炭自殺の途中で目が覚めたわ」 葵は空を見上げた。 髪が後ろに流れ、彪兎には素顔が見えた。 少なくとも彪兎の周囲に居る女達よりは綺麗だった。  
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