忍びと甘味と不穏

13/13
274人が本棚に入れています
本棚に追加
/752ページ
「嘘つけ。わかるようにわざと妖力を放出したくせに」 後ろから、緑色の袴姿の青年が声をかけた。 藍色の髪を頭の左側に無造作に束ね、こちらも派手だ。 くすくすと笑うその少年よりは、幾つか年上に見える。 「……それより、いいのか? あいつらとの無用な接触は禁止された筈だ」 すると、少年はニッと幼子のような笑みを浮かべ、 「いいでしょ、別に。完全に禁止とは言われてないんだしさ」 と言った。 少年は幸村たちの背中を見つめながら続ける。 「僕、すごく気になったんだ。──様が気にしてる妖憑きが、どれ程の力をもってるのか、ね」 「……で? お前から見て、あいつはどうだったんだ」 青年が溜め息混じりに尋ねる。 すると少年は、ほんの少し寂しそうな顔をして、 「ぼくや君……妖から見ても、かなりの力の持ち主かなあ。人間でいられるのが不思議なくらい」 そう言ってから、すうっとその顔から笑顔を消し去る。 その幼い顔に張り付いた表情は、ひどく不釣り合いな冷たいもの。 「……可哀想だけど、彼はいずれ力に喰われて妖になるよ」 「ふうん」 冷たく放った言葉を、青年は団子の串をかじりながらさして興味が無さそうに答えた。 そして、 「興味持つのはいいが、ホントの対象を見誤るなよ。オレたちの目的は、あくまで<神器>だ」 と、厳しく念を押す。 「わかってる。もう餌は撒いた。……あとは、間抜けな龍がかかるのを待つだけだよ」 少年はそう言って踵を返した。 青年も後を付いていく。 冷たい風が吹き抜けたとき、二人の姿はどこにもなかった。
/752ページ

最初のコメントを投稿しよう!