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「嘘つけ。わかるようにわざと妖力を放出したくせに」
後ろから、緑色の袴姿の青年が声をかけた。
藍色の髪を頭の左側に無造作に束ね、こちらも派手だ。
くすくすと笑うその少年よりは、幾つか年上に見える。
「……それより、いいのか? あいつらとの無用な接触は禁止された筈だ」
すると、少年はニッと幼子のような笑みを浮かべ、
「いいでしょ、別に。完全に禁止とは言われてないんだしさ」
と言った。
少年は幸村たちの背中を見つめながら続ける。
「僕、すごく気になったんだ。──様が気にしてる妖憑きが、どれ程の力をもってるのか、ね」
「……で? お前から見て、あいつはどうだったんだ」
青年が溜め息混じりに尋ねる。
すると少年は、ほんの少し寂しそうな顔をして、
「ぼくや君……妖から見ても、かなりの力の持ち主かなあ。人間でいられるのが不思議なくらい」
そう言ってから、すうっとその顔から笑顔を消し去る。
その幼い顔に張り付いた表情は、ひどく不釣り合いな冷たいもの。
「……可哀想だけど、彼はいずれ力に喰われて妖になるよ」
「ふうん」
冷たく放った言葉を、青年は団子の串をかじりながらさして興味が無さそうに答えた。
そして、
「興味持つのはいいが、ホントの対象を見誤るなよ。オレたちの目的は、あくまで<神器>だ」
と、厳しく念を押す。
「わかってる。もう餌は撒いた。……あとは、間抜けな龍がかかるのを待つだけだよ」
少年はそう言って踵を返した。
青年も後を付いていく。
冷たい風が吹き抜けたとき、二人の姿はどこにもなかった。
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