血と雨の追憶

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幸村が奥州に来てから、約一週間が経過した。 政宗は奥州の混乱をおさめるのに忙しく、小十郎もその補佐に奔走している。 そして幸村は、佐助と共に調べものをしていた。 あの鬼が言っていた<神器>についてである。 今は伊達家の古い書庫へ来て、古い史料を漁っていた。 政宗が家筋的に<神器>なら、記録が残っていると考えたからだ。 「ぶわっふぁい!」 埃を思い切り吸い込んでしまった佐助が、よくわからないくしゃみを連発している。 この書庫は、もうずいぶん前から人の出入りがないようだった。 書物を少し動かすだけで、もうもうと埃が舞い上がる。 これだけの書物があるのにもったいない、と幸村は苦笑した。 「ねぇ若~」 ずびーっ、と鼻を啜りながら、佐助が言う。 「何かさ~、それって調べる意味あんの? 独眼竜がその<神器>だったとしても、若には関係なくない?」 「あるよ」 幸村は書物をめくりながら即答した。 「政宗は……俺を助けてくれたから。政宗が妖に襲われる要素があるなら、それを知りたい。今度は俺が、政宗の力になりたいんだ」 「ふうん……」 佐助は、幸村が読み終えた書物を整理しながら言った。 「律儀だねぇ……ま、それが若のいいとこなんだけど」 幸村に聞こえないように、小さく呟く。 それはそれでいいのだが、幸村が取られてしまったような気がして何だか面白くない。 もやもやした気持ちを持てあまし、知らず知らずしかめっ面をしていると 「どうした佐助?」 「あ、ううん。何でもない」 あわてて返事をして、佐助は作業に戻った。 そして、取られた、などと思ってしまった自分を、心の中で戒める。 幸村は自分のものではないし、ましてや自分は幸村に仕える忍だ。 必要以上の感情を持つことは、決して許されない。 理屈の上では、わかっているつもりなのだが──……。 「それでも、俺は……」 「佐助。こっちの本は調べ終わったから、そっちに整理して置いてくれるか?」 「へ? あ、うん。了解しましたよっと」 幸村の言葉に佐助は現実に引き戻され、手渡された書物を棚に戻した。
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