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ここは日ノ本の北の地、奥州。
日ノ本有数の米所で、あちこちに金の稲穂が揺れる田が見られる。
今は丁度収穫時の真っ盛りで、いそいそと稲穂を刈り取る農民たちの姿があった。
素朴だか、暖かみのある光景。
そんな奥州にある青葉城の城下町を、ふらふらと歩く青年が一人。
彼の名は、伊達政宗。
ここ奥州を治める、伊達家の当主である。
右目は刀の鍔を模した眼帯で覆われ、暗い蒼が入った隻眼はきりりと鋭い。
肩にかかるくらいの長さの漆黒の髪を、風に踊らせていた。
見た感じだけでは、まさか彼が国主だとはゆめゆめ思わないであろう。
「相変わらず、結構賑わってんじゃねぇか」
活気づく市場を満足げに歩く。
からんころん、と歌うように下駄が鳴った。
奥州には近年、妖から逃げてきた人々が集まってきている。
そのため、今の日ノ本の状況が嘘のように人が行き交っていた。
季節は既に秋だが、今日は晴れているため比較的暖かい。
散歩には最高の日和だ。
甘味屋にでも行って、あいつに何か買っていってやろうか。
そんなことを考えながら、当てもなくふらふらと歩き続ける。
そんな政宗の平穏も、耳に届いた怒鳴り声に儚く崩れ去ることとなった。
「政宗様ぁぁあぁぁあっ!!」
腹の底が震えるような、大音量が町を貫く。
何事かと、民たちは顔を見合わせていた。
「うげっ……」
城の方から般若──ではなく、般若のような形相をした男が走ってきた。
あんなものが追いかけてきたら、鬼も裸足で逃げ出すに違いない。
政宗は慌てて逃げようとしたが、既に時遅し。
首根っこを捕まれ、あっという間に捕獲されてしまった。
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