エイアとズシオウマル

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まだズシが小さい時、あたしは好奇心で、ズシを冷凍庫に入れてみた。 ホワホワした暖かい毛を生やしたズシが、寒い冷凍庫の中でどんな景色が見えるのか、見てみたかっただけなんだ。 たったの5秒間だけど、未だに誰にも言っていない過去。 子犬in the北極、みたいな下らないテーマでやった無邪気だった。 直後に母親に爆心のごとく怒られた。 なんて怒られたかは覚えてないけど、数年後の今思い出しても心底反省すべき痛い過去だと思う。 「ズシ!ズシ!」 とはいえ、あたしはズシオウマルを心底可愛がった。 学校から帰ってきたら真っ先に庭に向かい、放し飼いにしていたズシの元まで行く。 「アン!アン!」 他の犬と関わる機会が少なかったからか、ズシの鳴き方は想像とは違っていた気がした。 紀州犬の血を引くズシは忠実で従順、元気だった。 祖先は獣猟犬で番犬に適した犬種。 父が買ってくれた犬辞典では、警戒心が強いことが強調されていた。 庭の芝生に座り、本を膝に乗せ、あたしはズシを撫でる。 「あんた警戒心が強いんだ あたしと一緒じゃん」 ズシは、あたしが持つ犬辞典を不思議そうに見ていた。  
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