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それは18歳の冬のことで。
大学に無事合格し、あとは卒業を待つばかりの俺を、父は真剣な面持ちでリビングへ呼び出した。
「珍しいな、父さんから話があるって。いったい何?」
「あのな、健人」
いつになく重い空気を背負って話をしようとしている父。
「いったいどーしたんだよ?いつもの父さんらしくないんだけど」
いつもの父も決して明るいという訳ではないが、それでも今目の前にいる父ほど暗くもない。
「実はな」
そういってゴクリと俺にまで聞こえるぐらいの音をだし、喉を鳴らした。
「再婚しようと思うんだ」
「…………え?再婚って?」
「だから、結婚しようと」
「いや、再婚の意味は分かるから。ってか、父さん彼女いたのかよ?!」
俺の家は母親がいない。
15年も前、つまり俺が3歳の時にガンで亡くなったらしい。
母の記憶は俺にはない。
だから父と息子、二人っきりで今までやってきた。
父さんは母さん一筋で、めっぽう女性には弱い人だと思っていた。確かに真面目で、優しいからモテたとしてもおかしく無いけど。
たまに冗談で「再婚しないのか」と尋ねると、母さん以外とは考えられない、そう話していた父なのに……。
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