屋上と夜景と死

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彼女は向かいのビルからの叫び声に驚いた。 驚いて、危うくビルから転落しそうになる。 向かいのビルから「わあぅあ~」と本能が叫んでいる。 叫びが功を奏したか、彼女はなんとか踏ん張った。 「死んじゃだめだ!!飛び降りちゃだめだ!!」 彼女は向かいのビルをじっと見る。 そこにはネオンに照らされた裸足の、顔がげっそりしている学ランの男がいた。そしてその男は一心不乱にこちらに叫んでいた。 「話なら俺が聞いてあげるから、死なないで!!」 「何なのよ、あんた!!」 「え…その…か、関係ないだろ!!そこから、ほら…もっと…真ん中に行って!!」 「あんたにあたしを止める権利なんてないでしょ、だいたい何でそこに居るのよ!!」 「いや…だから……自殺しに来たんだ!!」 この男に説得力はない。 「な、何よ!!それ!!わけわかんない」 「とにかく死なないで!!」 「なんでよ、あんたも死ぬんでしょ!!」 「え!!死ぬ!?わかんね!!」 「バカなんじゃないの!!」 「バカです!!だから死なないで!!」 地上45mで繰り広げられる前例のない舌戦は、都会の空に花火を散らしているかのようだった。 そして、静かな夜を邪魔された死神の堪忍袋が切れたかのように、二人を突然の突風が襲った。
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