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屋上と夜景と死
向かいのビルには一人の女性が仁王立ちしているようだった。
暗くてよく見えなかったが、ネオンが微かに彼女を照らし出す。
気付けば自殺そっちのけで女性を見つめる自分がいた。
遠目で見る限り彼女は非常に端正な顔立ちをしていたが、その表情には鬼気迫るものが表れていた。
ワンピースが妖しい風に吹かれている。彼女の仁王立ちしているその足は裸足であった。
ビルの淵にたち、そこに裸足でいるということから一つの予想がたてられる。
自殺志願者と自殺志願者が向かい合うビルの淵にたつ確率というのは恐らく天文学的な数字であろう。
私はその天文学的数字にゾッとしたが、向かいの彼女が何故か下界を見下ろしうなずいているのを見て、更にゾッとした。
風になびく、長い黒髪。
彼女を止めなければ。
これは私の本能の声である。
一瞬の油断で理性が吹き飛び、本能が口から流れ出す。
「死んだらだめだ!!」
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