第1章

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「ちょ、あのっ、紫苑先輩!!放してください!!」 「…面白いな、時雨は」 この人は水洟紫苑。 後ろで結った長い黒髪が印象的の男の人。…僕が苦手な人のベスト5に入ってたりもするのは勿論秘密事項だ。 でも、行き成り後ろから抱きつくのは本当に勘弁してほしい。 これじゃあ心臓が幾つあっても足りないじゃないか。 「放してくださいーッ!!」 「時雨はなかなか抱き心地がいいからな。そこらの抱き枕より断然いい」 「誰か他の人見つけてくださいお願いですから!!」 「おーおー、今日もにぎやかだなぁ」 唐突的に、僕と紫苑先輩、そして雄夜以外の声が生徒会室に響いた。 誰なのかと見るまでもないが、3人が一斉に入口に視線を向ける。そこに居たのは… 「あ、ヒロちゃん!」 「楽しそうだなぁ、紫苑。新しいぬいぐるみか?」 「…抱き枕」 「僕は人間です!!会長ひどすぎますッ!!」 冗談だよ、と笑いながら歩み寄ってくるこの人こそが、ここ夏目高校生徒会長の睦星広樹。 茶色い髪に黒い瞳。 しかも成績優秀スポーツ万能というまさに「秀才」と呼ぶのにふさわしい人物だ。 会長はソファーで胡坐をかいている雄夜の頭をポンッと撫でると、山になっているプリントに視線を移す。 「会計!計算は終わったか?」 「まだだよぉ~…途中で計算ミスしちゃってさ」 「やり直すしかないな。よし!やるぞ!」 「うえぇ~…ヒロちゃんもシグちゃんと同じこというの?」 口をへの字に曲げながら、渋々と電卓を打ち始める雄夜。 その横で、会長が黙々と書類に目を通している。 こんな当たり前の日常を過ごすことだけで、僕は満足だった。 過去がない人間ほど、今を生きるしか方法がないのだから。 だから、前に進むしかない。 けれど、まさかその判断がこれから思いもしない方向にことがすすむなんて、今の僕には全く予知できなかった。
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