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俺が集中してレバーを動かした甲斐があって、箱の隙間に入ったアームはそのまま箱を軽々持ち上げる。そして、それは出口まで一気に移動していき、箱を落とした。
タクは透かさず、商品出口と書かれた所に乱暴に手を突っ込み、戦闘乙女マユたんを手にする。それはもう、餌を見つけた野獣のように。
「と、とと、とったどーー!!」
「ハァー、俺、今ので金無くなったし、先帰っていいか?」
「ふーん……てっ、えーー!! もう帰るのかよ!! まだ全然遊んでないぜッ?」
もう、と言っても俺の時計は五時を差していた。……良い子は帰る時間だ、うん!
そんな小学生の門限以外にも帰る幾つか理由はまだある。ずっと立っていていたためか、妙に疲れた。そして、なるべく早く帰らないと今日の名ばかりの家族会議が長引きそうだ。
「……分かったよ。俺はもう少しいるから、ここでお別れだな」
一瞬、悲しそうな顔をしたが、すぐに立ち直して、何時もの笑顔に戻った。その光景は、俺が罪悪感を感じた瞬間でもあった。
「さて、それじゃあ、またな」
俺はタクから少し離れた所で、前を向いたまま、手を適当に振った。
「ああ、"また"な!!」
後ろから、タクの言葉が返ってきた。
何時もと変わらない挨拶。しかし、一部がわざとらしく強調されていた、ように感じられた。
やっぱり、タクには分かっていたのかも知れない。
俺は、"最後の挨拶"をタクと交わし、ゲームセンターを後にした。
そこに残ったのは、薄赤い空と、乾いた、かつ、肌を突き抜ける悲しい風だけだった。
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