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俺がゲームセンターを後にしてからしばらく経った。俺は無言で、小石を軽く蹴りながら道を歩き続ける。タクといた時はまだ夕日が綺麗だった空も、今では、灰色の空に変わっていた。
自分の家の帰り道の途中、前方に親しまれた老舗の駄菓子屋が目に入った。そこで更に、いつもの見慣れた顔も、"偶々"発見された。
俺は歩きながら、確認のため目を細めて再び駄菓子屋を見直した。やっぱり、見間違いでは無い。
「……望、か」
そう、新川望だ。いつの間にか、おそらく俺がゲームセンターで遊んでいるときに抜かされていたらしい。彼女はこんな時間に駄菓子屋で何をしているのだろうか。
俺が色々な激安のお菓子を取り揃えた駄菓子屋に近づく程、彼女の姿がはっきりして来た。どうやら、ある商品をジッと見つめているらしい。
「……、」
彼女が見つめていたのは、『ゴムチュウ』だった。一種の、チューイングガムに分類されるお菓子になっている。
「おばあさん……これ、安くならない?」
望は、見つめていた商品を指差し、駄菓子屋のおばあさんに尋ねた。
「すまないねぇ、それ以上はちょっと……」
税込み十円の商品を値切ろうとする少女。
なんてシュール光景だろうか。もう八十歳近いおばあさんも、苦笑いをして困惑している。
そして彼女は、『ゴムチュウ』に夢中で、俺の存在に気がついていないようだった。
このまま無視されるのも寂しいので、俺は望に声を掛ける決心をつけ、遂に彼女に話し掛けた。
「おい、望。たかが十円のお菓子だろ? それぐらいだったら望でも十分に買える値段じゃないか」
「……ッ!! 薫、いつの間に……」
望はしゃがんでいた為、目に掛かった栗色の前髪を手で払い、俺に目を向けた。
彼女の目は、世にも珍しいオッドアイだった。オッドアイと言っても、右は茶色、左は黒という分かりにくい色彩となっている為、余り気にはならないが。
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