176人が本棚に入れています
本棚に追加
「でも、今回は特別に無料で……薫の未来を預言してあげる。私は、義理深い女……だから」
義理と言っても、十円のガムだ。素直に言えば、"そこまでしなくても"が自分の思い。
俺は彼女の予言を一度も見たことが無い。タクは随分前に一回五千円の所を、親友価格で千円で占って貰ってもらっていたが、その内容はとても爆笑物で、面白かった。
「義理深い女、ねぇ。じゃあ、俺のこれからの未来を預言してみろよ」
「言われなくても……そのつもりだから」
望は歩くの突然止めた。それにつられ、俺も歩くを止める。
一帯に広がる田はあと少しで抜けられ、住宅街が見える位置に、俺達は立ち往生した。
冷たい風が身体をすり抜け、俺は身震いする。しかし、望は落ち着いていて、目を閉じて俺の頭に手を乗っけた。
彼女の手は風とは違い、凄く暖かった。不思議と、昔は良くこの手と手を繋いだな、という記憶が俺の中を巡る。
「……、」
「……、」
どれ位、時間は経ったのだろうか。彼女の手が頭に乗っかってから時間という概念が無くなった気がした。その上、俺は気づいたら、自然と瞳を閉じていた。
「――分かった。薫の未来が……」
「えっ…………!!」
その一言に思わず、目を開けた。
まさか、本当に未来が見えたとでも言うのか。最初は半信半疑だった俺は、その、"分かった〟という言葉に動揺を隠せなかった。
的中率百パーセント。
これは信憑性を高める為に預言部の誰かが流したデマ、俺は正直の所そう思っていた。
怖い。望に悟られるのが。俺のこれからの未来を知った時の、彼女の表情が。
遂に、遂に彼女の口が開かれる。その口から何が発せられるとしても、出来るなら俺は聞きたくなかった。
「薫の未来は……」
「み、未来は……?」
俺は生唾を飲み込んだ。外せ、外して欲しい、という感情が俺を襲う。もし、この預言が当たってしまったら、俺はどうすればいい?
最初のコメントを投稿しよう!