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☆
気づいた時にはもう『城ヶ崎』と書かれたネームプレートの前だった。
仕方無く、俺はリュックの二段目のチャックを開き、持つ部分がハサミ型のお洒落な鍵を取り出した。
「はぁ、遂に帰って来ちまったな……」
大きな溜め息を吐いて、憂鬱になりながらも、鍵をドアノブに差し込んだ。そして、鍵をゆっくりと回していき、ガチャリと音を立ててドアが開いた。
俺はベタついた手でドアを開き、玄関口に大きな一歩を踏み出した。
「ただいまー」
家に俺の声が反響する。今日は平日。普通なら、父親はいない。しかし、俺の予想通りならもう帰って来ているだろう。
「おぉおかえりー、私の愛する薫ぅーー!!」
そう、俺の親父が。
瞬く間にリビングから、走り出してきた変人に対抗する為、俺は玄関にある片足のスリッパを不審者同然の父親に向かって投げつけた。
「ぐわぁ!!」
不審者は変な声を出しながら、玄関先で転倒して、後頭部を床に強打した。
俺は玄関先で靴を雑に脱ぎ捨て、颯爽にリビングに向かった。
「待ってくれ、薫!! 私を助けてくれないか? ぎっくり腰で肩が……」
いつもこの調子で変態行動を起こす、脳がピンポン球の父親を置いて。
因みに親父は、ぎっくり腰でたびたび肩がイかれるらしい。頭がおかしいんじゃないかと思う。
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