借金まみれの少年のお話

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 リビングには、地デジ対応のテレビ、エコなエアコン、柔らかいソファーといった、一般家庭なら同然ある家具ばかりあった。  俺の目に入ったのは、それらに貼ってある赤い札、『差し押さえ』という紙。今、リビングには自分達の私物なんて物は存在しない事が一目瞭然だった。  ソファーに座り、身体を落ち着かせていると、玄関先から激しい物音がした。どうやら、完全復活のようだ。父さんは素早くリビングに入ってきて、俺の横に座ってきた。 「薫、このまま第四回家族会議を始めたいのだが、ゲホン、ゲホン」 「父さん……、幾ら肉親だからって、横に座るのは気持ち悪い」  態とらしい咳き込みと密着してくる身体。俺はそれだけで虫酸が走り、ソファーからカウンターキッチンに移動した。  そこには水の入った透明の二リットルのペットボトルに、飲みかけの水がワイングラスの中に入っていた。おかしいな、今は水道が止まっている筈なのに……。 「何これ? 家の水道止まってるじゃん。買ったの?」 「いや、違う。近所にある公園の水道から取ってきたヤツだ。薫も飲むか? 意外に上手いぞー」 「……いや、止めておくよ」  まさか、これ一本で一日を過ごしたのだろうか。いや、そんな訳ない―――― 「イヤー、意外と水だけでも人間って二週間は生きていけるんだってさ。凄いよねー」  ……先祖代々から続いている城ヶ崎家。今では、水が主食です。どう御先祖様に詫びたら良いか、もう俺には分かりません。  
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