借金まみれの少年のお話

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 俺の部屋は至って普通。七インチの小さなテレビ。鉛筆が数本転がった机。床はフローリング。まだ真新しいベット。どれを見ても、やっぱり普通。しかし、赤い札以外は、の話だが。  この光景を見ると、深いため息をするしかなかった。二回目の悲壮感に浸った俺は、部屋の隅にあるクローゼットから、乱雑に黒い適当なブランドの服とジーンズを選び、制服から着替えた。 「やっぱり、タクと望に言うべきだったか……?」  そこが一番悩むべき所だった。しかし、不安。見えない"何か"が怖い。どうするか悩んだ末、当日なってしまった。  夜逃げ。  これが、深夜二時に行われる予定の行動だ。当然、この街を離れる事になるし、高校も中退。クラスメイトとも別れる事になる。  しかし望の言葉を借りるなら、運命に抗っても仕方ない。俺は父さんからその話を聞いても、反対はしなかった。賛成もしていない。ただただ流れに沿って歩いて来た。  この考え方はおかしいだろうか。いいや、おかしくない筈。少なくとも俺は、だが。 「荷物の整理はこれで良し、と。……これはどうしようか」  あっという間にリュックに必要な物を入れ終わった。しかし、最後に残った物があった。  母親から譲り受けたフルート。  小学校三年から始め、借金が出来るまでの期間の間、習っていた楽器だ。男がフルートって性に合わないが、入院生活が多かった母親に元気になって欲しいと、小さい時は良く考えて、たどり着いた先が母さんが持っていたこのフルートだった。  父さんに『フルート習いたい』って言ったら『ブルータス!! お前もか!!』とか言ってた気がする。小さかったから分からなかったが、今なら単なるくだらない駄洒落だとすぐに分かる。二文字しか合ってない、というツッコミはあの頃には持ち合わせておらず、もう手遅れだろう。  
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