行間 闇

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 彼は自分ですらややこしい理解をした後、少し長い前髪をくるくるといじりながら話し出した。 「ここは僕達の世界、精神の狭間さ」 「……心の中って事か?」 「そう、簡単に言えば心の中の事だよ。まあ、俺、つまり君がノックアウトしている間に、僕が一つしかない身体を乗っ取っていたわけなんだけどぉ……まんまと『俺の所持品』にやられちゃってね」 「……、」  所持品? 何のことだ? 「だから、暫くは僕は外に出れない。それだけを言っておくよ。それに、代わりと言ってはなんだけど、ちょっとしたプレゼントを俺に上げたがらね。感謝してよ?」  俺が知らない内にどんどん話が進んでいて、一向に文脈を読み取れない。一体、いきなり何をこいつは言っているのだろうか。  ……俺は少し整理する事にした。彼がいう"俺"とは、多分俺の事を指しているのだろう。そして、推測だが彼は俺の二重人格の一つと考えていいかもしれない。  落ち着きを徐々に取り戻した俺は,更に深く考え始める。  しかし、それは一瞬の事に過ぎなかった。考え始めると同時に、彼の左手が動いたのだ。俺は少し身構えたが、それは杞憂に終わる。彼は左手の黒い長袖を捲ると、時計も無いのに時計を見る素振りをしただけだったのだから。 「……おっと、残念ながらそろそろお別れの時間のようだね。じゃあね、俺」 「うおわッ……!!」  彼はとあるメーカーの靴で、黒い不安定な床を二回叩くと、そこからひびが入り、大きな音を立てる。そして揺れながら、遂には巨大な溝が出来てしまった。"僕"との距離がどんどん離れていく。  そして彼はニヤリと笑い、口を開けた。 「あ、そうだ。君とは長い付き合いになるから、僕の別の名前を教えてあげるよ」  肉眼で僕の姿を確認出来なくなると、上から声が落ちてきた。別の名前、遂に正体が明かされる。 「僕の名前はクライス、しがない盗っ人だよ。ああそうそう、僕からのプレゼントは"ちゃんと"有効利用してよね」  
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