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人差し指が差す方向にあるのは、直径五センチの太い鉄棒のような鉄格子を締めている、これまた頑丈そうな南京錠だ。
『……驚きました。まさか、主人からそんな言葉を聞く事が出きるなんて、私は動揺を隠せません』
「別に、こんな所にずっといたいなんて考える奴はいないだろ。普通だ、普通」
『いえ。脱走する事自体は私も賛成ですよ。私はスリルとサスペンスが好きな大人の女性ですからね』
……、
「なんか凄い人間臭いヤツだなお前……お前は只のゴーグルだ、変な言葉遣いするなって」
『ゴーグルではありません。モーグル、です。そこの所、間違えないで下さい』
そこで少しモーグルは溜め、そっと口にした。
『私が思ったのは、ある意味冷え切った感情の主人が、なぜ脱走なんて思い立ったのか。いつもなら、「運命のままに」とか馬鹿な事を言ってそこらへん寝っ転がる筈ですよね』
……、
「……なんでだろな、言われてみると確かにそうかもしれない」
目覚めてから、何故だか心境がスッキリとしていた事に今気づいた。確かに、モーグルが言った事を俺は言いそうだ。だが、俺はここから抜け出したい。そんな気持ちで一杯で、今なら逃げ切れる自信が不思議と湧いていたからだ。
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