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タクはあれから一時間程使ったが、結局、戦闘乙女マユたんは未だに、救出を出来ていなかった。あの器用な手捌きは、形だけだったらしい。
「フゥ、仕方ない。必殺技だ!! 行け、カオルぅーー!!」
「ちょ……わ、わかった。わかったから……あんまりデカイ声出すな!!」
タクは自分で取る事を諦めて、最後の最後で俺に頼って来た。余りそういう事はしたくないのだが、今回は特別に助けてやる事にする。失った金額が相当で目も当てられないからな。
「マジで? じゃあカオルの奢りね。俺は財布スッカラカンだから。頼んだぞ」
それを聞いて、俺はさっき言った言葉を撤回したくなった。しかし、約束は約束。男に二言は無い。俺は大きく息を吐いて、年期の入った長財布を制服のポケットから取り出した。
百四十二。何の数字かお分かりだろうか。これは俺の全財産だ。つまり、一ゲーム百円のUFOキャッチャーは一回しか出来ない訳だ。
……男に二言は無い。
俺は渋々、財布の中にある百円を悪徳販売機の中に入れた。
百円は特有の金属音を立てながら、機械を作動させる。テンションを煽る電子音のBGMも、今ではイライラするだけだ。
「……、」
「おーカオルの真面目な姿、久しぶりに見たな」
俺はレバーを微調整して、マユたんの入った箱にアームを向ける。アームの力はパワフルだ。上手くいけば、一発で取れる。
そして段々、制限時間が迫って来た。俺は落ち着いて、レバーを横に傾ける。大体の場所でレバーーを一旦ニュートラルに戻し、さらに横から覗き込みながらレバーーを縦に傾ける。
そしてついにレバーから手を離すと、ゆっくりとアームは電子音を鳴らしながらマユたんの入った箱の隙間に差し込む。
「よし、そうだ!! そのまま行けー!!」
「うるさい、黙って見てろ」
「お、おう」
俺はドスの利いた声で静かに、タクを黙らせた。俺の貴重な金なんだ。もっと集中させて欲しい。
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