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「……チッ」
昼間の天気が嘘のように、降りしきる雨に思わず舌打ちをした。
こんなことなら担任の呼び出しなんか無視して帰ればよかった。
慣れないことはするもんじゃないと思います。
「走るか…」
最寄り駅から地元まで電車で30分
学校から駅まで歩いて10分
地元駅から家まで5分
そんなに遠くない分、めんどくさい。
「……あのっ、」
「あ?」
「……ッ…傘、どうぞ…」
消えそうな声でそう言って折りたたみ傘を差し出してきたのは、珍しく平凡な奴だった。
自惚れとかではなく、俺に絡む奴はだいたい容姿に自信があったり不細工でも目立つのが趣味みたいな奴ばかりで、俺は、アクセサリーのようなものだから。
もしも、俺が喧嘩が弱くて不細工だったら関わりもしないだろう。俺自身、こんな自己中嫌だ。
「……お前んだろ。なんでよこすんだ」
怖いなら素通りすればいいのに。
別に、とって喰おうなんて思ってないし…。
「……えっと、俺ん家近いんで!じゃなくて、イケメンさん雨ん中帰して風邪でもひかせたら俺が殺されちゃいます。誰が見てるか分からないし…」
きっと後が本音だろうに、何故か腹がたたなかった。
男同士で折りたたみを相合い傘なんて寒いだけだしな。
「……じゃあ、借りる。」
借りるんだ。
借りパクなんて日常茶飯事で、むしろ他人からモノを盗むほど飢えてはなかったが、それにしたってたかが傘を返す約束をするなんて、自分のことでも鳥肌がたった。
「……はい。」
几帳面な字でご丁寧に、1年A組篠田有希とかかれた傘を見て、傘よりもこの平凡を持って帰りたくなったのは、この暑さで頭がいかれたせいだと思いたい。
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