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翌日、一同は大阪に向けて出発した。芹沢を先頭にして殿には土方がつく。当然私は土方の小姓なので土方の前を歩いていた。
「大丈夫か?疲れていないか?」
私の前を歩いている斎藤さんは心配して話しかけてくれる。
「大丈夫ですよ。まだそんなに疲れてはいません」
「そうか。疲れたら言うんだぞ」
「ありがとうございます」
素直にお礼を言う。すると後ろの土方が怪訝そうに口を開いた。
「何だ斎藤、今日はやけに壱夜を気にしやがって」
「別に、何でもありませんよ」
斎藤さんは頬を少し赤くしてそっぽを向いてしまう。その行動で何かに気づいたのか、土方はにやにやし始めた。
「へぇ、斎藤、お前がなぁ…」
「な、何が言いたいのですか」
「いやぁ別に、何も」
どうやら土方は斎藤さんをからかい始めたようだ。近くにいる沖田さんも「確かに今日は斎藤さんの表情もよく変わりますねぇ」と首を傾げている。何かを知っているのか佐之さんはにやにやしながら「だって斎藤はなぁ…」と、沖田さんに何かを教えた。
「ええっ!まさかあの斎藤さんが!?」
「どうやらそのようだぜ」
「原田。総司に余計なことを話すな」
少し怒気の含んだ口調で斎藤さんは佐之さんを睨み付ける。それを近藤さんと山南さんはにこにこと笑って見ていた。
「いいじゃないか斉藤君。いやはや、青春だねぇ」
「そうですねぇ」
「お二人もからかわないで下さい」
斉藤さんは少し諦めた口調で言う。
「からかってるつもりはないんだがなぁ」
近藤さんは困ったように頭の後ろをかいている。
どうやら皆で斉藤さんをからかっているようだ。私はその様子を微笑みながら見ていた。
大阪の街並みが見えてきた頃、先頭を歩いている芹沢が少し不機嫌な声を上げた。
「そこをどけ」
気になって様子を見てみると何人かの力士が道を塞いでいる。彼らは何やら人を見下すような目をしている。
「気に食わない。土方みたい」
そう私が呟いたのを聞いて土方が睨みつけてきた。斉藤さんはそれを宥めてくれる。
だがそうしている間に周りが騒がしくなった。
「なんだと?もう一度言ってみろ!!」
芹沢の怒気の含んだ声に少しビクッとする。すると力士の声が聞こえてきた。
「だから、薄汚い壬生浪なんかに譲る道なんかねぇなぁ」
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