愛情

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二人はまだ怪訝な顔をしていたが、とりあえず土方は納得したようだ。 「…蓮。やっぱり此処から離れた方がいい。こんな男の巣窟に置いておけないよ」 青が真剣な顔でそう言ってくる。 其れを聞いた土方は眉間に皺を寄せた。 「全く、しつこい男だな。何故そんなに壱夜に依存する?」 依存、という言葉を聞いて青は血相を変えた。 「依存なんかじゃない!俺は蓮が心配なだけだ!!」 いきなり青は怒鳴ったので私達は驚いて彼を凝視する。 逸速く我に返った土方が青を睨み付けて言った。 「依存じゃなきゃ何だって言うんだ? 壱夜以外の人間に対しては威嚇してるじゃねぇか。今にも噛み付きそうな目をしてよ」 一瞬青は狼狽えたが、直ぐに土方を睨み返した。 「五月蝿い! 何も知らないあんたに何でそんな事を言われなければならないんだ! 何も…何も知らない癖に!」 そう言う青は何だか苦しそうな顔をしていた。 「青…」 思わず彼の名前を呼ぶと、彼は酷く悲しそうな目をして此方を向いた。 「……じゃぁね。また、迎えに来るよ」 そう言うと青は身を翻して足早に出ていってしまった。 …………何だ? 胸がズキリと痛む。 締め付けられている様な、そんな感覚だ。 思わず胸に手を当てる。 すると、頭の中に朧気に映像が流れてきた。 これは……青? 『人間なんて……人間なんて……っ!』 恨み言を言うように青は繰り返し呟いている。 その青の憎悪が此方にも伝わって来るように私の心を侵食していく。 「憎い…」 そう呟いた私の様子を見ていた斎藤さんが、心配そうに声をかけてきた。 「壱夜?」 「…何ですか?」 「何故殺気立っている?」 「え?」 知らない内に殺気を発していた様で、土方も此方を向いて眉間に皺を寄せていた。 「す、すみません。無意識で…」 「…そうか」 そう言いながらも私の心の中にはどす黒い感情が渦巻いていた。 これは知らない感情ではない。 昔の私はいつもこの感情を抱えていた気がする。 そう思うのはきっとこの感情が私の心にすっぽりとはまってしまったからだ。 「……人間が憎い、か」 誰にも聞かれないように自重気味に呟く。 その私の様子を土方が横目でじっと見ていた。
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