愛情

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それから数日が経った。 私は左之さんと巡察に出ていた。 「あ―あっちぃなぁ今日も」 そう言って左之さんが手で扇ぐ仕草をする。 「京は四方を山で囲まれている盆地ですからね。暑いときは極端に暑いですし、冷えるときは極端に冷えますよ」 私がそう言うと、左之さんは思い出す様に言った。 「そう言われてみればそうだったな。冬はめちゃめちゃ寒かった気がする。お前は地形にも詳しいんだな」 「そうみたいですね」 何処で身に付けたか解らない知識が出てくると、以前は何故記憶が無いのに解るのか戸惑いがあったが、最近はそういうものだと割りきれるようになった。 「それにしてもこの暑さどうにかならねぇのか?隊士たちがばてちまって手が足りねぇ」 左之さんが呆れた口調で言う。 そうなのだ。この暑さのせいで隊士達がばててしまって巡察する人数が減っている。 人手が足りないということで私も駆り出された。 「まぁ、この時期は仕方がないですよ。私も出来るだけお手伝いしますから」 「おう!宜しく頼む!…と言いたいが壱夜、芹沢さんはいいのか?」 「ああ…今は大丈夫ですよ。昨晩も遅くまで飲んでいた様で、寝ていましたし」あんなことがあったから土方は私を芹沢から遠ざけようとしたが、私は断った。 負けたようで嫌だったからだ。 その後尚も芹沢の近くでに頼まれた雑用等をしていると、芹沢は「物好きなやつだ」と言って笑っていた。 「私も息抜きしたいですしね」 「そうだよなぁ。だが俺は壱夜が芹沢さん相手に上手く立ち回ってる事に感心するぞ」 「そうですか?」 「ああ。俺には無理だ。そう思うよな佐々木?」 私達の後ろについてきていた佐々木愛次郎はその問いに反射的に答える。 「はい!壱夜さんが芹沢さんと一緒に居れるのは凄いことだと思います!私は怖くて出来ません」 佐々木は想像したのか身体を震わせる。 「別に、そんなに怖がること無いですよ。彼は割と気さくな人みたいですから」 「気さく!?あれの何処が!?」 左之さんは驚いた顔をして尋ねる。 無理もないな、と思いながら私は答えた。 「この間は洗濯物を干しているときに偶然通りかかって『励めよ』とか言って労ってくれましたよ」 その私の言葉に二人は唖然としている。
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