愛情

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「それは…かなり意外だな。」 「ええ…」 左之さんと佐々木は口々に言う。 その時だった。 「どうか、それだけは御勘弁を…!妻と娘を養っていかなければならないのです!」 「ああ?俺達は尊皇攘夷の志士様だぞ?金を渡せねぇと言うのか?」 そう言って狭い路地で浪士三人が町人を取り囲む。 どうやら浪士達が資金集めを建前に町人から金を奪っているようだ。 私は彼等に近付いていく。 「貴方達のような人が攘夷なんて言葉を使うなんて、攘夷が可哀想じゃないですか」 私がそう言うと、浪士達は振り向く。 「なんだぁ餓鬼。文句でもあるのか?」 「今言った通りです。人様から金品を巻き上げるような輩に攘夷なんて言葉は相応しくない」 「何だと…!?」 浪士の一人が刀に手を掛ける。だがもう一人の浪士が彼を止めた。 「待て。見て解らないのか? こいつ等壬生狼だ。」 「御名答。…と言いたいけどこの隊服を見て気付かない何て事は無いか。左之さん」 私はこの中で一番偉い左之さんに指示を仰ぐ。 「おう!歯向かえば容赦無く斬り捨てる。…どうする?」 その左之さんの言葉に浪士達はたじろぐ。 だが、刀に手を掛けていた浪士はその刀を抜いた。 「壬生狼なんて恐るるに足らん!此方が斬り捨ててやる!」 そのまま近くに居た私に斬りかかる。 「ひぃっ!」 絡まれていた町人は刀に怖じ気付いて逃げてしまった。 私は刀を抜かずに地面を蹴り後ろに退いた。 「なんだ?怖じ気付いたのか?」 私に切りかかった浪士がにやりと笑う。 「別に。」 素っ気なく答えると彼等の勘に障ったのか睨んできた。 「まずはお前からだっ!」 再度きり掛かろうと浪士が振りかぶった瞬間、私は彼の懐に潜りこんだ。 「何…!?」 そのまま私は抜刀し、後ろに回り込んで峰打ちをする。 そのまま浪士は気を失った。 それを見た他の浪士達は後退った。 「貴方達はどうしますか?」 「くっ…!おい、逃げるぞ!」 そう言って気を失った彼を担いで足早に逃げてしまった。
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