愛情

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その後夕食も終わり皆が眠りにつく頃、私は縁側に腰を掛けて涼んでいた。 「ふぅ…今日も疲れた」 あの後屯所に帰ると芹沢が起きていて、「酒を買ってこい」と言われたので渋々また街に買いに言ったのだ。 これからは酒を買い置きしておこう。 何度も街の出るのは体力の無駄になるしな。 そう考えていると、後ろから声を掛けられた。 「壱夜さん」 振り向くと、そこに居たのは佐々木だった。 「佐々木さん、どうしたんですか?もう皆さん布団に入っている時間ですよ?」 「はい。なんだか眠れないので夜風に当たろうと思いまして。」 そう言って、佐々木は私の隣に腰を下ろす。 「昼間は有り難うございました」 「ああ、気にしないでください。私の気まぐれですから。…無事に会えましたか?」 「はい!お陰様で!あぐりに貴方の話をしたら、今度会ってみたいと言っていました!」 あの街娘はあぐりというのか。 というかそれよりも… 「私の話をしたんですか!?」 そちらに驚いて私は目を見張る。 「私の話なんか面白くも何ともないでしょうに…」 「いえ!壱夜さんは強くて私をあぐりの所に行くように促してくれた親切な方だって言ったらあぐりは感激していました!」 感激されるほど大層なことをした覚えはないんだけどな。 そこで私はずっと思っていた事を口にする。 「佐々木さんとあぐりさんという方は…恋仲なんですね」 その言葉を聞いた佐々木は顔を真っ赤に染めながら躊躇いがちに頷いた。 「そうですか…。佐々木さん、一つ聞いていいですか?」 「な、なんでしょう?」 「恋とは、どういう物なんですかね?良いものなんですか?」 私のその疑問に佐々木は面食らった顔をする。 「壱夜さんは恋をしたことが無いんですか?」 「無いですね。恋愛感情というものすらどんなものか解っていません」 私がそう答えると、佐々木は更に目を見開いた。 「そんなにいい顔をしているのに…何だか意外です」 「そうですかね?」 「はい。貴方なら幾らでも女性が寄ってきそうですもん」 男じゃないから女の人に寄って来られても困るんだけどな。 私はそう思って苦笑いをした。
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