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沖田さんはすべてを食べ終え、「皆さんにお土産を買ってきますね」と言ったので外で待つことにした。
すると、派手な着物を着た髪が少し茶色っぽい男と、漆黒の髪を高く結い上げている男が近づいてきた。
「なぁ、そこの顔のいい少年。此処で何してるの?」
「人を待ってる。」
髪が漆黒の男が聞いてきた。見知らぬ人に敬語は要らないだろうと思い、そっけなく答える。
「何やってんだ吉田。俺たちは団子を買いに来たんだろうが」
「別にいいじゃん、ちょっと気になる人に声かけたって。高杉だってこれが美人な女子だったら声けけるだろ?」
吉田に高杉……。まさか。
「吉田稔麿に高杉晋作…?」
「あれ?俺等名前教えてないよね?どうして解かったの?」
吉田がそう言うと以前感じた違和感をまた感じた。
確かにおかしい。記憶がないのに何故会ったことのない人物の名前が解かるんだ?
「…解からない。何だ、これは。」
動揺していると高杉と吉田が顔を見合わせてまた此方を見る。
「お前、どうしたんだ?何か変なものでも食ったのか?」
高杉が能天気な声で聞いてくる。それを吉田が「そんなわけないだろ」とつっこみを入れて心配そうに此方に向き直った。
「君、様子がおかしいよ?具合でも悪いの?」
その言葉に首を振る。
「違う。私、記憶が無いのに何故……っ!」
咄嗟に口を塞ぐ。
不味い。高杉と吉田は壬生浪士組にいる自分にとって敵である長州に所属していたはずだ。自分はあまり関わってはいけない。
そう考えてから自分の違和感に気づいた。
―――そうか、自分に関する記憶は無くて他の知識や他人の名前を憶えているのか。
「記憶が無い?どういうことだ?」
吉田が聞き返してくる。
余計なことを口に出してしまった。どう切り抜けようか。
そう考えてる内に沖田さんが甘味屋から出てきた。
「あれ?壱夜さん。もうお友達が出来たんですか?」
そう沖田さんが言うと高杉と吉田がそちらを向く。微かに眉をひそめた。どうやら沖田総司だと気づいたらしい。
「沖田さん。ただ道を聞かれただけなんです。さ、早く帰りましょう。」
この状況を早く切り抜けたかった私は沖田さんの背中を押して歩いていく。
「壬生浪士組の沖田…」
そんな呟きが後ろから聞こえた気がした。
「!」
そこでまた昨晩感じた気配を感じた。
……見られていたのか。
そう思いながら帰路へとついた。
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