始まり

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  その後土方に「朝の無礼の罰だ。てめぇが昼食を用意しやがれ」と言われて渋々台所へと来ていた。 「壱夜君、すまないね。手伝ってもらっちゃって。」 「いえ、副長命令ですから」 井上源三郎―――源さんが申し訳なさそうにそう言うのを笑顔で返した。 源さんは女中のいない壬生浪士組の中で料理が一番上手らしい。 食事の用意は二人づつ順番に行うそうだが他の皆は何故か手順通りにやっても不味くなるからと殆ど源さんが用意しているそうだ。 「じゃあ、壱夜君はお味噌汁とおかずをお願いできるかい?」 「はい。わかりました。」 そう言いながら手際よく大根を切り、鍋に入れて味噌を溶かす。煮ている間におかずになる人参や芋を切って別の鍋に入れる。それを源さんは関心した様子で見ている。 「壱夜君は料理が上手なんだね」 「そうみたいです。これからは出来る限りお手伝いしますよ」 「そうかい?たのもしいねぇ」 やさしい顔で微笑んでくれる。この人は本当に優しい人なんだな。 そうしている内に昼食ができて皆が食べる広間に運び込んだ。 「お、壱夜が作ったのか?」 「土方の命令で」 「あー、朝の仕返しって奴か」 「でも、美味そうだな」 平助君と佐之さんと永倉さんが話し掛けてくる。 すると沖田さんもやって来た。 「美味しそうな匂いですね」 「ああ、沖田さん。もうすぐ用意できますよ」 もう一度もどって運んでくるだけで用意は終わる。それを運んでくるともうすでにおかずの争奪戦ははじまっていた。 「その煮物、いただきっ!」 「あ、こら!勝手に捕るな!」 「油断してるからだよ。そらっ!」 「こら佐之!お前まで捕るな!」 よく見れば物静かそうな斉藤さんまで参戦している。沖田さんはただ笑って傍観しているだけだ。 私が戻ってきたことに気づいたのか山南さんが「おいで」と隣を指差している。そこに座ると山南さんが口を開いた。 「いつもこんな感じなんだ。すまないね。慣れるまで大変だろう」 「いえ、大丈夫ですよ。大勢で食べると美味しく感じますし」 「そう言ってくれるとうれしいねぇ」 山南さん――山南敬介は土方と違って穏和で優しい。 そんな会話をしているとそれまで不機嫌そうな顔をしていた土方が此方を睨んだ。
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