始まり

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片付けた後土方に呼ばれ、夜の巡察にいくことになった。妙な気配の正体を確かめるためだと言う。 「お前が外に出ると感じるんだったら、巡察に出ればまた追ってくるかもしれねぇ。山崎にも隠れて同行してもらっている。気配を感じたらすぐに言え」 「わかった」 夜の京の街を歩いていく。初夏のため少し蒸し暑い。 額の汗が流れたときだった。 ―――視線を感じる。いつもの妙な気配だ。 「土方」 「ああ、わかってる」 するとずっと気配を隠していた山崎さんが走り出す気配を感じた。私も妙な気配の方向へ走り出した。 「あ、おいっ壱夜!!」 後ろで土方が叫んでいるのを気にせず走る。すると妙な気配も移動し始めた。 「っち!!逃がすかっ!」 近くの建物の屋根に飛び上がり、上から気配を追う。 「あいつ山崎かよ!身軽ですばしっこい!」 土方の悪態をつく声が聞こえた。土方達も私の後を下から追っている。 その時気配が止まった。同じ方向から山崎さんの気配もする。そちらの方向を土方に教えそこについてみると、小柄な少年が山崎さんに捕まっていた。 「てめぇか、壱夜を監視していやがった奴は。何故監視してた」 土方が少年を睨んだ。すると少年は怯んだ様子もなく怪しい笑みを浮かべている。 「あんたには関係ないよ。あるのはそこの女顔の兄ちゃんだ」 そう言って私を指差す。土方は不快に思ったのか片眉を上げる。 「何の用だ」 そう聞くと少年は答える。 「あるお方が貴方のようなチカラを持つ人を切望しているんだよ」 「チカラ?」 何のことだ? 「知りたいなら着いて来てよ。損はさせないとおもうよ」 少年は不敵に笑う。山崎さんに捕まっているのに恐れてもいない様子だ。 「断る」 私はきっぱりと断った。 「な、何故?」 少年は動揺している。断られるとは思っていなかったんだろう。 「自分にあんたの言うチカラとやらがあるんだったら、その内気づくだろう。自分の事だからな。それにさっき焦るなと言われたばかりだ」 そう言って土方を見ると「そうだ」と言わんばかりの顔をしている。 少年がそれを見てチッと舌打ちをすると、山崎さんの脛(すね)を蹴って山崎さんから逃れた。 山崎さんは痛そうに顔を歪める。 「ふん。後悔するなよ」 それを捨て台詞に少年は暗闇へと逃げていった。
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