記憶

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ーーー苦しい。 また、追いかけられている。 逃げても逃げても迫ってくる。 お願いだから、やめてくれ。もう来ないでくれ。 真っ暗な中で必死に走りながら懇願する。 私を追いかけている真っ暗な”モノ”は、私の体を徐々に飲み込んでいく。 飲み込まれまいと必死に何も無い方向へ手を伸ばす。 そのとき、誰かの声が聞こえた。 「……を………せ…」 その声は聞き取れない。 その間にも私は闇に飲まれていく。 誰か、 助けて。 そこで意識は途切れた。 「…や、おい壱夜!」 「あ…れ、ひじ…かた…?」 目を覚ますと、土方の心配そうな顔が見えた。 「魘(うな)されていたぞ。悪い夢でも見たのか?今日も暑いからな」 「夢…」 大阪から帰ってきたその日、私は酷い疲労感に襲われてすぐに倒れるように布団に入った。そしてあの逃れられない悪夢を見た後、このように土方に起こされたのだ。 「…なんだか土方に助けられたみたいだ…」 「何か言ったか?」 「なんでもない」 「…そうか」 私のあの発言から土方は此処のところずっと難しい顔をしている。 …無理もない。非現実な事を言ったのだから。自分でもおかしいと思う。 だが、きっと土方は今、私と同じ事を考えているのだろう。 ―――ある御方が貴方のような”チカラ”を持つ者を切望しているんですよ―― あの怪しい少年の言葉だ。 もしかしてその”チカラ”というのはこの事なのだろうか。 未来が解るチカラ…………? いや、そう考えるのは早い。いまこうしている内に次に何が起こるかなんて解らないのだから。 「解らないことだらけだ…」 土方に聞こえないように小さく呟く。 記憶が戻れば直ぐに解決できるのに。このまま何も解らないなんて気が変になりそうだ。
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