2149人が本棚に入れています
本棚に追加
/406ページ
ーーー苦しい。
また、追いかけられている。
逃げても逃げても迫ってくる。
お願いだから、やめてくれ。もう来ないでくれ。
真っ暗な中で必死に走りながら懇願する。
私を追いかけている真っ暗な”モノ”は、私の体を徐々に飲み込んでいく。
飲み込まれまいと必死に何も無い方向へ手を伸ばす。
そのとき、誰かの声が聞こえた。
「……を………せ…」
その声は聞き取れない。
その間にも私は闇に飲まれていく。
誰か、
助けて。
そこで意識は途切れた。
「…や、おい壱夜!」
「あ…れ、ひじ…かた…?」
目を覚ますと、土方の心配そうな顔が見えた。
「魘(うな)されていたぞ。悪い夢でも見たのか?今日も暑いからな」
「夢…」
大阪から帰ってきたその日、私は酷い疲労感に襲われてすぐに倒れるように布団に入った。そしてあの逃れられない悪夢を見た後、このように土方に起こされたのだ。
「…なんだか土方に助けられたみたいだ…」
「何か言ったか?」
「なんでもない」
「…そうか」
私のあの発言から土方は此処のところずっと難しい顔をしている。
…無理もない。非現実な事を言ったのだから。自分でもおかしいと思う。
だが、きっと土方は今、私と同じ事を考えているのだろう。
―――ある御方が貴方のような”チカラ”を持つ者を切望しているんですよ――
あの怪しい少年の言葉だ。
もしかしてその”チカラ”というのはこの事なのだろうか。
未来が解るチカラ…………?
いや、そう考えるのは早い。いまこうしている内に次に何が起こるかなんて解らないのだから。
「解らないことだらけだ…」
土方に聞こえないように小さく呟く。
記憶が戻れば直ぐに解決できるのに。このまま何も解らないなんて気が変になりそうだ。
最初のコメントを投稿しよう!