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目を覚ますと見知らぬ天井が見えた。周りを見渡すと四畳半の畳の部屋に寝かされていることを理解した。
「起きたか?」
声がする方をみると、気を失う前に見た男――土方歳三がいた。彼はそのまま布団の横にドカッと座る。自分も起きあがった。
「お前、名は?」
そう聞かれて考える。だが、いくら考えても思い付かない。土方を見ると、すぐに返事がないことにイライラしているようだ。
「わからない。」
「は?」
正直に答えたつもりだがより彼の苛立ちをよんだようだ。
「思い出せない。」
本当のことだ。だがそれでも土方の苛立ちはおさまらない。
「お前、間者か?」
「だから、わからない。」
自分も段々イライラしてきて、土方を睨んだ。
すると土方は長いため息をしてから、隣にある物を差し出す。
「これはお前のものだよな?」
それは黒い小さい箱――
折り畳み式の鏡だった。
「鏡?どうしてこれが?」
そう言いながら受け取り、弄ってみる。中を開いてみると、名前が刻まれていた。
――壱夜 蓮(イチヤ レン)。
「どうやら自分は、壱夜 蓮という名前らしい。」
そう言って鏡に刻まれている名前を見せる。
土方は確かめるようにまじまじとそれを見た。
その様子を見ながら自分のことについて考える。
どうして自分の名前が思い出せなかった?名前だけじゃない。自分の過去の記憶がない。自分のことについては何も思い出せない。だが…
「お前、本当に記憶がないのか?」
土方は訝しげに尋ねる。彼も何か違和感を感じているのだろう。だが、その違和感の正体は自分にもわからない。
「記憶がないのは本当だ。だが違和感がある。」
正直に答えると、土方は何か考えるような素振りを見せてから立ち上がり、ついてこい、と言った。
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