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土方についていくと、大きな部屋に入った。其処には何人かの人が座っている。
土方に促され座ると、周りから一斉に敵を見るような視線を感じた。
そうか、皆間者だと思っているのか。
ため息をつくと土方が此方を一瞥してから口を開いた。
「こいつは壱夜 蓮と言う。色々と話を聞いたがどうやら名前以外憶えてないらしい。」
室内がどよめいた。「嘘だろ」とか「間者にきまってる」という声が聞こえてくる。鬱陶しいと感じているのがわかったのか土方はもう一度此方を一瞥すると「近藤さん」と隣にいる男に声をかけた。
こんどう……近藤勇か。
そう思うとまた違和感を感じた。
「こいつをどうする?」
土方が近藤に尋ねると、近藤は此方をむいて顔を近づけてきてきた。
「君は本当に記憶がないのかね?」
土方と同じ質問に半ば呆れつつうなずく。
「だいたい、記憶があったらこんなところには来ないし、間者ならもっと上手くやるし、見つかったときに舌噛んで死んでるさ。」
そう言うと、斜め前にいた男がいきなり笑いだした。昨日見た男――沖田だ。
「そりゃごもっともです!近藤さん。記憶があったらこの壬生浪士組の屯所内にも入りませんよ。」
沖田が笑いながらそう言うと土方がうなずく。
壬生浪士組…?
確か、徳川家茂将軍警護のために組織されたものだったよな。
とするとここは京か。
そんな事を考えていると近藤が口を開いた。
「記憶がないとなると可哀想だ。歳、どうかな?壱夜君をこの壬生浪士組に入隊させては?」
「「は?」」
土方と声が重なった事がつぼに入ったのか沖田はまた笑っている。
「どうしてそうなるんだ…」
土方は呆れた声で言うが近藤は不快に感じていないようだ。
「いや、壱夜くんの手を見たらわかる。これは刀を扱ったことのある手だ。」
そう言って土方に手を強引に見せると土方は確かに、と呟いた。だがまだ疑っているのか首を縦に振らない。
自分が刀を扱える…?もし本当なら記憶を探す手がかりになる。
「信じられないなら試合をしてみるのがいい。――総司、頼めるか?」
「はいっ!」
近藤がそう言うと沖田は嬉しそうに返事をする。
「あの、まだ…」
下手に出て言おうとすると沖田が強引に手をつかんで引きずられてしまう。
「さあ行きましょう!」
まだ入隊するとも言ってないのに…
長いため息がこぼれた。
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