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……どうやらこの人達はこっちの都合なんかお構い無いらしい。まだここに入ると自分から言ってないのに。
「はぁ……」
今日何度目かのため息が漏れた。
だが、記憶がない自分にとって唯一憶えていたのは、戦い方を知っているということだ。もしかしたらここに居た方が記憶が戻る確実が高いかもしれない。そう割りきっているときだった。
「お帰りなさい!芹沢さん!」
入り口の門の方から声が聞こえてきた。
芹沢……?
芹沢鴨か。
そう考えている内に此方の方に鉄扇を持った体の大きい男が歩いてきた。
「お帰りなさい、芹沢さん。今日の金策はどうでした?」
沖田がそう聞くと、芹沢と呼ばれた男はふんっと鼻を鳴らした。
「どうもこうもない。どいつもこいつもケチ臭い。」
そう言うと此方を向いて品定めをするような目で見てくる。
「あ、紹介がまだでしたね。此方の方は壱夜 蓮さん。さっき入隊したばっかりの新人さんです!壱夜さん、此方の方が壬生浪士組の筆頭局長の…」
沖田が言い終わらないうちに芹沢が顔をズイっと近づけてきた。幾らなんでも少し引いてしまう。
「あの…芹沢さん?」
沖田や周りの人達は心配な面持ちで見ている。芹沢はそれに気にする事なくまじまじと見つめてくる。そしてやっと離れてくれた時だった。
「何故このような女子がここにいる?」
「だから言ったじゃないですかぁ。さっき入隊し……え?」
沖田はびっくりした顔で此方に振り返る。藤堂や佐之さんまでもが一斉に見てきた。
「「「女子ォォォっ!?」」」
叫び声にもにた三人の大きな声がこだました。
思わず耳を塞ぐが三人の驚きと焦りは止まらない。
「壱夜さん、本当に女子なんですか!?」
「まじで女!?」
「そう言われてみれば女の顔に見えなくはないよな…」
佐之さんだけは妙に関心した様子でうんうんとうなずいている。
肯定の意味で、コクコクとうなずくと沖田はガックリと項垂れた。
「私は女子に負けたんですか…」
「って言うかこれ、土方さん達にも伝えた方がいいんじゃ…!」
藤堂が気付いたように言うと沖田と佐之さんがうなずく。
「そうだな。芹沢さん、俺等はこれで失礼しますね。」
そう言って佐之さんが腕を掴んで引っ張っていく。芹沢の方を見て頭を下げると、鼻を鳴らすだけだった。
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