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その夜、夕食の前に他の隊士達に紹介された。土方の小姓だと言うと、皆同情の眼差しで労ってくれた。それに少し気持ちが軽くなりながら、食べ終わった後土方の後ろについて部屋に戻るときだった。
―――おかしい。
誰かに見られている気配がする。
土方は気づいていないようだ。
辺りを見回しても誰もいない。他の皆はまだ夕食を食べ終えていないからいるはずがない。
……どうする?
自分はまだ刀を持っていない。もしこれが敵だったら応戦できないかもしれない。
幸い殺気は感じないから可能性は少ないが、いくらなんでもおかしい。
「土方。おかしい。」
そう言うと土方は眉間に皺を寄せて此方を見る。
「てめぇ、目上の奴に敬語もねぇでしかもおかしいとはどういう了見だ。だいたい…?」
その言葉で土方もこの妙な気配に気づいたようだ。
「お前、何時から気づいてた?」
「広間を出た時からだ。敵かと思ったがどうも様子がおかしい。まるでこっちを観察してるような…。」
土方は驚いた様子で此方をみていたが、その内何かを考え出して「ついて来い」と言い歩き出した。
やがて土方の部屋に着くと土方は「山崎」と呼びかけた。
すると天井裏から一人の男が飛び降りてきて、音もなく着地した。
――これが山崎 丞か。
その顔は口元まで黒い布で隠されているためよくわからないが、目は切れ長で割りと良い顔立ちなのが想像出来る。
「お呼びですか、副長。」
「壱夜が外で妙な気配を感じた。お前、何か解かるか?」
「私も今おかしいと思い、気配をたどりましたが、尻尾が掴めない状態です。
ですが、安心して良いかと思います。
危害を加えるようなものではないようです。」
山崎がそう言うと、土方は「そうか。下がれ。」と言って床に座る。つられて座ると土方は此方を向いてからまた何かを考えるように目を伏せた。
「土方?」
少し心配になり顔を覗き込んだ時だった。
「ひっじかったさぁぁん!」
許可もなく襖が開け放たれ、沖田が部屋に入ってきて此方の様子を見ると驚きの表情を見せた。
「な、ななな、何やってるんですか土方さんっ!!初日にいきなり壱夜さんを襲うなんて!!」
襲う?何の話だ?
私が疑問に思っていると、何かが切れる音がした。
「そぉぉぉぉじぃぃぃぃ!!何所からどう見たら襲ってるようにみえるんだぁ!!」
……今日は静かに眠れなさそうだ。
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