5人が本棚に入れています
本棚に追加
/51ページ
ちいさなほころび
それは本当にちいさな、ちいさな破れ目から這い出てきた目であり芽である。
毛糸と毛糸のおあそびを邪魔してやってきたよこしまな目、おばかな芽。
だってねそうでしょう。
ひどいものです目玉とふたば。
甘い甘い優しさをあげないと、かえってくれないよ。
ちがうよ。勘違いしないでよ!
蜂蜜みたいにあたたかく、明るい明るい夜明けの甘さじゃないよ。
綿菓子みたいな日だまりの、胃もたれしそうな甘さじゃないみたい。
だけど、だから、クリームみたいに堂々と、てっぺん狙ってフォークで狙われる厳しさじゃないってこと。
だめでした。
ちゃんと言わないから途中のまんま。
じんわり涙のしみた、あみかけのマフラーみたいに。
毛玉みたいだよ、そのマフラー。
素直じゃないね、きみ、おんな?
なんならあげよう、お好みの甘さ。
かえってくれないよ。
かえってくれないよ目と芽。
目は泣いてる。
まるい涙を絶えず流してる。
だけどくやしい。この目、ガラス玉みたいに綺麗なの。もしかしてこの涙は砂糖水かしら。
芽は成長したわ。
ぐんぐんのびて、ひまわりみたいに太陽を渇望してる?
糸みたいにひょろっちい茎の頂上、黒い蕾をつけて爛々としてるけど、これが花開いたらわたしはどうすればいいの。
あなたたちは甘いのちょうだい、っていうけど、ねえ、きみ、逆効果なの。
ミルクティーの海に沈みたいなんて、甘えてるわ。
だけど違うでしょ。
そうよ。
あなたたちが欲しい甘さはこんな甘さでしょ。
わたし知ってるのよ。
甘いものばかり吸っていきてきたあなたたちが、実は満足してるふりをしてるってこと。
砂糖はいれない、あなたたちは甘いのが欲しいんじゃない。
アンティークを思わせる、セピアに赤くパステルに茶色い、透き通った色のストレートティー。
あなたたちが欲しいのは、本当は、甘くないけど優しい、これよ。
突き放してくれる甘さを欲しがってたの。
つぎたてを召し上がれ。
そっと、机に沈むように目と芽は消えた。
机には目と芽に注いだストレートティーだけ残ってる。
何にも解決してやいない。
最初のコメントを投稿しよう!