ある少しおかしな人の独白

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ちいさなほころび それは本当にちいさな、ちいさな破れ目から這い出てきた目であり芽である。 毛糸と毛糸のおあそびを邪魔してやってきたよこしまな目、おばかな芽。 だってねそうでしょう。 ひどいものです目玉とふたば。 甘い甘い優しさをあげないと、かえってくれないよ。 ちがうよ。勘違いしないでよ! 蜂蜜みたいにあたたかく、明るい明るい夜明けの甘さじゃないよ。 綿菓子みたいな日だまりの、胃もたれしそうな甘さじゃないみたい。 だけど、だから、クリームみたいに堂々と、てっぺん狙ってフォークで狙われる厳しさじゃないってこと。 だめでした。 ちゃんと言わないから途中のまんま。 じんわり涙のしみた、あみかけのマフラーみたいに。 毛玉みたいだよ、そのマフラー。 素直じゃないね、きみ、おんな? なんならあげよう、お好みの甘さ。 かえってくれないよ。 かえってくれないよ目と芽。 目は泣いてる。 まるい涙を絶えず流してる。 だけどくやしい。この目、ガラス玉みたいに綺麗なの。もしかしてこの涙は砂糖水かしら。 芽は成長したわ。 ぐんぐんのびて、ひまわりみたいに太陽を渇望してる? 糸みたいにひょろっちい茎の頂上、黒い蕾をつけて爛々としてるけど、これが花開いたらわたしはどうすればいいの。 あなたたちは甘いのちょうだい、っていうけど、ねえ、きみ、逆効果なの。 ミルクティーの海に沈みたいなんて、甘えてるわ。 だけど違うでしょ。 そうよ。 あなたたちが欲しい甘さはこんな甘さでしょ。 わたし知ってるのよ。 甘いものばかり吸っていきてきたあなたたちが、実は満足してるふりをしてるってこと。 砂糖はいれない、あなたたちは甘いのが欲しいんじゃない。 アンティークを思わせる、セピアに赤くパステルに茶色い、透き通った色のストレートティー。 あなたたちが欲しいのは、本当は、甘くないけど優しい、これよ。 突き放してくれる甘さを欲しがってたの。 つぎたてを召し上がれ。 そっと、机に沈むように目と芽は消えた。 机には目と芽に注いだストレートティーだけ残ってる。 何にも解決してやいない。
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