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「あいつもそれは同じだと思うよ。僕が未だに鈴音を愛しているっていうのも知っていて、責任を取るという言葉を了承したんだから」
「そんな簡単に愛しているなんて、言わないで……っ!」
「僕にその資格は無いのは分かってる。分かっているけど、あの我が儘だけは忘れないで欲しいんだ」
「……お願いだから……。何も言わないで。さようならって言って」
絶対に離れるものかとでも言うかのように、身体をさらに密着させて、私の髪に頬を擦り寄せる。
「僕は忘れない、絶対に」
「――お願い。……お願いだから……、こんなこと」
こんなことしないで、と言う言葉が途切れてしまった。
馬鹿だな、私。
信じてくれと言った先輩を、信じて。
恋焦がれて、浮かれている自分が。
でも。でも、ね。
先輩、大好き。
愛しているよ。
どうしようもないくらいに。
「忘れないで」って言うけれど、それは難しいよ。
たから、いっそのこと。
温もりを感じていられる幸福感を味わったまま、今日を最後に死んでしまえたらいいのに。
神様はそんな願いを叶えてくれない。
そんなことは分かっている。
ぐちゃぐちゃな気持ちを抱いたまま。
私は人目も気にせず、大声を上げて泣くことしか出来なかった。
私の大切な陽だまりの中で。先輩が告げてくれない別離の言葉を、心の中で言いながら。
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