3.忘れたい、忘れられない

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 携帯電話には、アドレスが残ったまま。  付き合った頃に交換したメールも、一緒にデートしたときに撮った写メも全部消去した。  でも、アドレスだけは何故か出来なかった。  いつか連絡が来るのではないか、そんな淡い期待を心の何処かで残っているのを私は自覚している。  別離の言葉も言ってくれなかったあの人のことを忘れることが出来ずに。  あの日以来、あの人からの着信を知らせるために設定した音楽は鳴ることなんてある訳ないのに。  ……馬鹿な私。  今日で一年が過ぎる。  上手に出来なかった別離のせいなのか、さようならと言えずに終わったせいか。  ただ、これだけは言える。  私達はあの日に同じ傷を作りあったのは間違いない。  あの人の贈り物は未使用のまま、妹にあげてしまった。その代わりに自分でチェリーブロッサムのオードトワレを買い、それを愛用するようになった。  時折香ってくるあの甘い匂いが、あの人は元気にしているだろうか? と私を思わせる。  「忘れないでくれ」と言ったあの人の望み通りになっている。  そして、私はもう恋愛なんてしたくない。そういう行動をしていた。  由香里には通い出したホストクラブへ行こうと誘われたり、千紗が所属しているサークルのコンパに強引に連行されて、新しい恋を私にさせようとしてくれるけれど、避け続けた。  二人が元気の無い私を心配してくれるのは分かるし、嬉しい。  その反面、ほっといて欲しいとも思う。  甘い匂いを纏っているのは、私が選び続けていること。  プラットホームで言った、私の我が儘。  ――少なくとも、記憶の中に居るあの人は私だけの人なのだから。
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