1.砕けた砂糖菓子

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+++ 「……妹さん?」  眠気の含まれている掠れ声がした。  会話していた声で起こしてしまったみたい。懐かしい記憶を辿る旅は、そこで中断する。 「そう。ごめんね、起こして」 「寝直せばいい」  折りたたみの携帯電話を閉じ、サイドテーブルに置くと数歩の距離で辿り着けるダブルベッドへ歩を進める。そこの端に座り、青みががっている黒髪をそっと撫でた。  くすぐったい、そういう表情だ。 「酷いな。俺より先に浴びたんだ」  シャワーを済ませていることにこの人が気付いたのは、二人で愛用しているロクシタンのシアソープの柑橘系の香りが匂うせいだと思う。  不服の意味も込めてだろう。撫でている右手首を掴み、軽く噛まれてしまった。  この人の指先も細長くて、あの人に似てる。  掴まれている光景を見ながら、そう思った。 「貴方も浴びてきたら? その間にシーツ交換しちゃうから」 「湿っていても気にしないけど」  白い世界へ意識が飛んでしまったときに放ってしまった洪水の跡を手でなぞりながら、不敵な微笑をする。  羞恥に頬が朱に染まる。こういう言葉責めに未だに不慣れな私の反応を楽しむためにわざと言っているのを十分に分かるけど、どう反撃してもかわされてしまうから何も言わないことにした。
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