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「お前はこの子を護る為に産まれたんじゃ」
始めに聞こえたのはそんな言葉だった。
瞼は硬く眼ヤニで固められているようで無理に開くと、まつ毛が引き抜かれて痛い。
まだよく見えない目をひん剥くようにこじ開けると、そこには頭の禿げ上がった初老の男と、小さく可憐な少女が大きな狼のぬいぐるみを持って立っていた。
なぜかぬいぐるみの耳はちぎれてなくなっていたのが気になる。
機械的な装置が狭い室内を埋め、縮こまるように置かれた机には書類の束がビル群を形成していた。ここは、どこかの研究室だろうか。
「こいつが私の僕?」
少女が明らかにこちらを指さしてのたまう。不服そうな表情が憎たらしい。
「そうじゃい。お前を護る僕じゃ」
僕だと?
誰がだ。
まさか、この将軍様の事を捕まえて言ってるんじゃないだろうな。
……?
将軍?
俺が?俺は将軍なのか?
と、いうか、俺は誰だ?
名前はなんだった?
何をしていたんだっけ?
………………、全く思い出せない。
「さあ、名前を付けてやるんじゃ」
目は開いたが、身体は指の関節一節たりとも石化したかのように動かない。全身どこか痺れているような感覚もある。
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