番外編Ⅰ

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 まず、彼女が説得をする。自分達は闘いに来たのではない、貴方にお願いがあって来たのだ、と。彼女の説得は続く。自分達の願いは、一度でも良いから貴方の背に乗って空を飛びたい、協力してもらえないでしょうか。  その想いが通じたのか、ドラゴンは自らの背を私達に向けた。それを見て内心喜ぶ私と彼女。早速、乗せてもらうことにした。  空を駆け上がるドラゴン。風は強いが、見晴らしの良い景色。遠くまで見渡せるのだ。その光景に、私と彼女は感動した。戦争ばかりある世界だが、空から見る世界は美しい、と。  山頂へと向かうドラゴン。その先に見えたモノは、無数のドラゴン達。そして沢山の『巣』だった。  私と彼女は、その瞬間悟った。このドラゴンは私達の願いを聞いたのではなく、餌として連れてきたのだと。  しかし、もう遅い。ここは地上より遥かに上空。足場はドラゴンの背。逃げ場はない。ならば、最後まで足掻こう、と。  私はその時、気が付いた。剣帯から吊るしていた剣がないことに。そういえば、と回想する。ドラゴンの背に乗る時、敵意を示さないためにそのままにしておいた、地面に置かれた剣の姿。彼女の方を見ると、彼女も顔が青ざめていた。その腰には、私と同じように何も着けていない。  私は、彼女に耳打ちする。杖が無くても魔導は使えるのか、と。彼女の返答はこうだった。 「魔導を使うには、まず杖を触媒として自身の身の内にある魔力を増大させ、魔導を行使するのに必要な量を作ってから魔導として使います。杖がない場合は、自身の魔力でのみ魔導を行使するが、その場合は魔導構築理論と魔導演算術や次元結合方程式、座標特定に必要な空間固定理論などの異世界召喚理論が必要で、それに上乗せするように、自身の魔力を一時的に底上げする魔力増幅理論を織り込まないといけないので、行使することは出来はしますが、時間が掛かりますよ」  という冷静で長ったらしい返答が返ってきた。騎士の私には全く理解出来ない内容が多かったが、使えないことはないらしい。  希望は残っていた。ならば、後は私と彼女の運に賭けるのみ。  ドラゴンは自分の住み処へと二人の人間を乗せて帰って行った。  青き空に映るのは、険しき北の山脈と空を駆けるドラゴンの姿。その背には二人分の人影。彼らがどうなったかは当事者とドラゴンしか知らない。
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