『賢者』

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 魔導は知識。  数多の魔導をその身に刻み、その魔力と知識を持ってして戦場に立つ。相手は、多数の魔導士。それでも、己の知識を絶対の自信へと変えて、怯まずに立ち向かう。  私は、普通の魔導士だった。普通の魔力。普通の容姿。普通の家庭。普通の中にあった唯一の異常は、その記憶力だった。幾多もの魔導書も、一回読めば覚えてしまうほどの記憶力だ。その上、その知識は混乱することなく、すらすらと答えることが出来た。  多くの魔導書を読み漁り、知識を身に付けていく。砂が水を吸収するように、その速度は早かった。  だが、知識だけでは魔導は使えない。魔導を行使するのに必要な魔力が無ければ宝の持ち腐れだ。知識と魔力が揃って魔導としてこの世に具現化出来るのだ。  知識を吸収した私は、魔力の底上げをするための訓練を始めた。魔力を限界まで使い、その回復量で上限を上げるという一般的な方法だった。だが、その上がる量は微々たるものだ。時間が掛かり、根気も必要となるこの方法は、普通の魔導士ではやらない。彼らは、私のように豊富な知識を持っていないので、魔力の底上げなど必要ないのだ。  悪いと言ってる訳ではない。私の場合は、知識だけが先行して魔力が追い付いていない状態だからこの訓練をするのであって、普通の魔導士達はその知識でも充分に魔導を行使出来るからだ。  朝から夕方まで訓練をし、夜は魔力不足の倦怠感を抱えつつ知識を詰め込む。そんな毎日を送っていた。  流れる歳月。あれから魔力の上限も上がった。古き魔導書の一つに魔力を効率よく上げる実験というのがあった。だが、そのまま使うのではなく、私なりに手を加えて利用した。それにより、以前から行っていた方法より、魔力が効率よく上がった。  豊富な知識に釣り合う魔力を手に入れ、戦場に立つ。身につけた魔導知識の中にあった対軍魔法を行使する。天候に干渉し、敵軍の上空に雨雲を集わせ落雷を導き、強力な電撃を浴びせる。黒焦げとなった敵。その光景を青ざめた顔で見つめる敵兵。  そして、時には豊富な知識を活かして味方の兵士に助言をする。魔導書だけではなく、他の書物も読み漁っていたからだ。仲間の魔導士にも頼りにされる。  敵軍の上空に雨雲を集わせ強力な雷撃を浴びせる魔導士。その知識と魔導は、豊富であり、味方からは頼られ、敵からは恐れられる。  いつしか彼は『賢者』と呼ばれた。
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